遺言の効力① 一般的効力
みなさま、こんにちは。
兵庫県神戸市でお客さまの問題の早期解決と行政書士の立場からできる社会貢献を目指し活動しているウェーブ行政書士事務所の松井昭一です。
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神戸の終活奮闘記では、みなさまが遺言を作成するときや突然相続が始まったときに役立つような記事を書いていきたいと考えています。
どうぞ、肩の力を抜いて気軽にお付き合いくださいませ。
前回の記事では、遺言の証人と立会人の欠格事由について確認いたしました。
今回は、遺言の一般的な効力について説明いたします。
遺言の効力発生時期
無効となる遺言や取り消される遺言を説明する前に、遺言の効力が発生する時期について確認します。
遺言は、原則として遺言者の死亡により効力が生じます。
例外として停止条件付の遺言をした場合、その条件が成就したときから効力が生じます。
停止条件とは、その内容が成就したときに法律上の効果が発生する条件のことです。
具体例として、親が子に対し「大学受験で第一志望校に合格したら、祝い金をあげる」と合意をする停止条件付の贈与契約や、不動産売買において銀行ローンが希望通り組めることを条件とした停止条件付の売買契約などがあります。
停止条件付遺言の例として、「相続人夫婦の間に子供が生まれたら財産の一部をその子にあげる」とか「相続人が〇歳になったら土地と建物をあげる」といったものです。
成就とは、願いや望みがその通りにかなう様子や努力したことの達成、物事を成し遂げることです。「恋愛成就」や「学業成就」などがなじみ深いですね。
無効となる遺言
無効とは、ある法律行為から当事者の意図した法律効果が生じないことです。
無効な法律行為は、当事者の一定の行為 (無効の主張) を待つまでもなく最初から法律的効果を生じません。
そのため、誰に対しても、また誰でも無効を主張することができます。
無効は、原則として追認しても効力を生じません。
追認とは、瑕疵 (かし:キズ) のある不完全な法律行為をあとから完全に有効なものとするための意思表示のことです。
作成した遺言が無効となる場合は、以下のとおりです。
- 遺言能力のない者による遺言
- 複数の者が共同する遺言
- 口がきけない者・成年被後見人が所定の方法に従わないでする遺言
- 被後見人による計算終了前において、後見人またはその配偶者・直系卑属の利益となるべき遺言
- 公序良俗に反する遺言
- 錯誤に基づく遺言
遺言能力のない者による遺言
遺言能力のない者が作成した遺言は無効となります。
遺言能力とは、遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る意思能力のことです。
つまり、遺言をする者がおこなう遺言の内容を理解し、かつ、その遺言の結果どのような効力が生じるのかについてわかる力がなければ、その遺言が有効とならないということです。
行為能力が制限されている者であっても、それぞれの条件を満たせば遺言することができます。
行為能力とは、法律行為を単独で有効に行なうことのできる能力(法律上の資格)のことです。
法律行為とは、意思表示を要素とする法律要件で,意思表示の内容どおりの法律上の効果 (権利の変動) が生じるものです。
未成年者
15歳に達した者は単独で遺言することができます。
遺言の効力は、遺言者の死後に生じるため未成年者である遺言者自身が害されることはありません。
未成年者が売買契約のような法律行為をおこなう際に必要な行為能力は特に不要とされ、遺言という行為を判断する能力があれば十分と考えられているためです。
民法は、だいたい15歳になれば遺言をするだけの能力を備えていると考えています。
ただし、15歳に達していても遺言をするだけの能力を備えていない者がおこなう遺言は無効とされてしまいます。
また、本人の最終的な意思を尊重するため、法定代理人による遺言の代理は認められていません。
15歳に達していない者は、その個性を問わず遺言能力はないとされています。
成年被後見人
成年被後見人であっても、事理を弁識する能力が一時回復したときには、2人以上の医師の立会いにより、単独で有効な遺言をすることができます。
被保佐人・被補助人
被保佐人・被補助人は、保佐人・補助人の同意を得なくても、単独で完全に有効な遺言をすることができます。
複数の者が共同する遺言
民法は複数の者が共同しておこなう遺言を禁止しています。
共同遺言の禁止
共同遺言とは、2人以上の者が同一の遺言書で互いに関連する内容の意思表示をすることです。
遺言は、遺言者の単独の意思表示が確保される制度であり、2人以上が共同しておこなう遺言は遺言制度の趣旨から外れてしまいます。
共同遺言者の一人が、自由に遺言を撤回することができなくなってしまうなどの不都合が生じてしまうため、各自の最終的な意思表示を確保する観点から共同遺言は禁止されています。
ただし、夫名義の遺言と妻名義の遺言を同じ封筒を用いて封緘された遺言書のように、容易に切り離すことができる自筆証書遺言は、共同遺言に当たらないとされています。
口がきけない者・成年被後見人が所定の方法に従わないでする遺言
遺言は要式行為とされています。
要式行為とは、意思表示が一定の方式に従って行われないと効力が生じない法律行為のことです。
遺言の方式に従っていない遺言は無効とされます。
被後見人による計算終了前において、後見人またはその配偶者・直系卑属の利益となるべき遺言
後見人などが被後見人を利用して自分たちに有利な遺言をさせること防ぐ目的で定められています。
ただし、後見人が第三者ではなく被後見人の直系血族、配偶者、兄弟姉妹であるときは、このような恐れは少なく被後見人の意思を尊重することができるものとされています。
公序良俗に反する遺言
配偶者のある遺言者が、死亡するまで妾の関係を維持・継続することを条件とした遺言があり、公序良俗違反を理由に無効とした裁判例があります。
公序良俗とは、公の秩序、善良の風俗の略語で、行為の社会的妥当性のことです。
公の秩序とは、国家社会の秩序を主眼とするものです。
善良の風俗とは、社会の一般的道徳観念を主眼とするものです。
社会的妥当性とは、一般的抽象的な概念のことで、具体的な内容の決定は裁判所の判断にまかされています。
不倫関係にある女性に対する遺贈であっても、妾の関係を維持・継続することを目的としない生活支援のためのもので、その遺贈により配偶者や子の生活基盤を脅かすものといえない事情がある場合には、公序良俗違反とはならないとした裁判例もあります。
錯誤に基づく遺言
錯誤とは、内心的効果意思 (真意) と表示が一致せず,そのことを表意者みずからが自覚していない場合の意思表示のことで、勘違いなどがこれにあたります。
例えば、実は100万円しか預金がないのに1000万円あると勘違いし、1000万円を遺贈すると表示し、遺言者がその勘違いを自覚していない場合などです。
これに対し、遺言者は預金が100万円あることを知っていたのに1000万円遺贈すると表示した(嘘をついた)場合、心裡留保は常に有効となるため無効な遺言とはなりません。
心裡留保とは、表意者が本心 (真意) でないことを知りながらおこなった意思表示のことで、嘘や冗談がこれにあたります。
以上の事柄に該当する場合、その遺言は無効となります。
取り消しうべき遺言
これまで確認してきた無効は、要件が整っていないため当初から効果が発生しないので誰でも主張することができました。
これに対し取消しは、一旦有効に成立した法律行為の効力が、要件に瑕疵があることを理由に取消権を有する者が将来に向かってその効力を失わせることです。
取り消しうべき遺言とは、一旦有効に成立した遺言が、取消権者によって取り消されてしまうかもしれない遺言ということです。
ただ、取消権者に対して取消権の行使が強制されるわけではなく、取り消されなければ有効な遺言として取り扱われます。
取り消しうべき遺言となるのは、詐欺や強迫によって遺言された場合です。
詐欺や強迫によっておこなわれた遺言は遺言者に取消権が与えられ、取り消しうる遺言となります。
しかし、遺言者はもともと生存中であればいつでも自由に遺言を撤回することができます。
そのため、詐欺や強迫による遺言を取り消しうる遺言とすることについて、特に意味がないように考えられます。
なぜ、一見するとあまり意味がないような規定があるのかといえば、取消権が相続の対象となるためです。
詐欺や強迫によりおこなわれた遺言を、相続人が取り消すことがあると考えられるためです。
強迫について
先程から「強迫」という言葉を用いていますが、間違えているわけではありません。
一般的な「きょうはく」は、脅迫が用いられるかもしれませんが、この脅迫は、刑法上の脅迫罪によるもので、文字通り「脅して迫る」ものです。
例えば、背中に鋭利なナイフを突きつけられ脅されながら遺言する場合などです。
民法上の「強迫」は、暴行・監禁あるいは害を加える旨の告知などにより、人に恐怖を抱かせその行為を妨げまたはおこなわせることで、文字通り「強いて迫る」ことです。
例えば、「遺言内容を○○としなければ暴れちゃうぞ!」といった具合です。
遺言は、遺言者が他人の意思による制約を受けることのない生前最後の意思表示ですから、他人に強く迫られた場合、取り消し得るものとされています。
おわりに
今回は、遺言の一般的な効力について説明いたしました。
神戸の終活奮闘記では、みなさまが遺言を作成するときや突然相続が始まったときに役立つような記事を書いていきたいと考えています。
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