遺言の効力② 遺贈
みなさま、こんにちは。
兵庫県神戸市でお客さまの問題の早期解決と行政書士の立場からできる社会貢献を目指し活動しているウェーブ行政書士事務所の松井昭一です。
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神戸の終活奮闘記では、みなさまが遺言を作成するときや突然相続が始まったときに役立つような記事を書いていきたいと考えています。
どうぞ、肩の力を抜いて気軽にお付き合いくださいませ。
前回の記事では、一般的な遺言の効力について確認いたしました。
今回は、遺言の効力の「遺贈」について説明いたします。
遺言の効力「遺贈」
遺贈の意義
遺贈とは、遺言者が包括遺贈または特定遺贈のいずれかにより、遺言者の財産の全部または一部を処分することです。
遺言者の意思によるものであっても、財産処分の全てが無制限に認められることはありません。
これは、相続人の生活の安定や財産の公平な分配という観点により遺留分の規定に反することができないとされているためです。
遺留分についての説明は、あらためて別の記事でいたします。
受遺者
受遺者とは、遺贈により利益を受ける者のことで、人のみならず会社や社団などの法人も含まれます。
ただし、受遺者は遺贈の効力が発生したときに生存(存在)していなければなりません。
この原則を、「同時存在の原則」といいます。
そのため、「遺言者が死亡する前に受遺者が死亡したとき」や「停止条件付遺贈における受遺者が条件成就前に死亡したとき」は、遺贈の効力が生じません。
例外的にまだ出生していない胎児について、受遺能力が認められています。
これは、胎児の出生と遺言者の死亡の前後によって不利益が生じることのないように、権利能力が認められていない胎児について特に遺贈を受ける能力を認めるものです。
権利能力とは、権利の主体となることのできる法律上の資格のことで、権利能力を有する者に「人」と「法人」があります。
例えば、遺言者が亡くなった日の3日後に胎児が出生した事例を用いて考えてみます。
同時存在の原則通りに解釈すれば、母親のおなかには胎児の存在があきらかであっても遺言者の死亡時に胎児が出生(生存)していないため、胎児に受遺能力が認められません。
ただ、胎児より先に出生した兄や姉がいた場合に胎児の受遺能力が認めなければ、遺言者が亡くなった日よりわずかに遅れて出生した子と先に出生していた兄や姉の関係において、同じ兄弟姉妹間で不公平が生じてしまいます。
このわずかな時期の違いによる多大な不利益を防ぐため、原則として胎児は権利能力を備えていませんが、生きて出生した子は胎児の時期に遡って受遺能力が認められます。
遺贈義務者
遺贈義務者とは、遺贈の履行義務を負う者のことで、原則として遺贈義務者となるのは相続人です。
例外的に相続人以外の者が遺贈義務者となるのは、相続人と同様に扱われる包括受遺者です。
遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は相続人・包括受遺者の代わって遺贈義務者となります。
相続人が誰もいないときは、相続財産法人の遺産管理人が遺贈義務者となります。
包括遺贈
包括遺贈とは、遺言者が「遺産の全部」とか「遺産の何分の1」というように遺産の割合を示して遺贈することです。
遺産の全部または一部を割合として取得する包括受遺者の地位は、相続人に類似していることから、相続人と同一の権利を主張することができ、また、相続人同様の義務を負います。
そのため包括受遺者は、遺産を当然、かつ、包括的に承継し、相続人または他の包括受遺者と遺産を共有し、遺産の分割をおこないます。
ただ、包括受遺者は相続人自身ではないので相続人と全く同じ権利や義務があるわけではありません。
包括受遺者と相続人の違いには次のようなものがあります。
- 法人は、相続人となることができないが包括受遺者になることができる
- 遺贈が効力を生じる前に受遺者が死亡しても包括遺贈には代襲相続のような制度がない
- 共同相続人や他の包括遺贈者が相続を放棄しても包括受遺者の持ち分は増えない
- 包括受遺者が相続による不動産取得を第三者に対抗するには登記が必要
- 包括受遺者に遺留分はない
特定遺贈
特定遺贈とは、遺言者が「ある建物1棟」とか「某銀行の預金全部」というように、特定の財産を示して遺贈することです。
特定受遺者は、特定の財産について贈与契約における受贈者と同様の地位に立ちます。
受贈者とは、贈与契約において贈与を受ける者のことです。
遺贈が行われる前の受遺者と遺贈義務者との間における関係について説明いたします。
特定受遺者の担保請求
受遺者は、おこなわれる遺贈が期限付き・停止条件付で、その弁済期が到来するまでの間は、その遺贈に関する権利を保全するため遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができます。
特定受遺者の果実宗主権と費用償還義務
受遺者は、原則として遺贈の効力が生じたときから、目的物の果実を取得しますが、その反面、受遺者は遺贈義務者が遺贈の目的物について支出した費用を遺贈義務者に償還しなければなりません。
また、果実を収取するために遺贈義務者が支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で遺贈義務者の償還しなければなりなせん。
民法上の果実とは、物から生じる収益のことをいい、天然果実と法定果実の2種類に分けることができます。
天然果実とは、物の用法に従って収穫したり、取ったりする産出物のことです。
木にリンゴがなった、農作物を収穫した、飼い猫に子供が生まれた、牛から乳が搾れた、山で鉱物がとれたなどの、このリンゴ、農作物、子猫、牛乳、鉱物はすべて天然果実となります。
法定果実とは、物を使用させた対価として受け取る金銭やその他の物のことです。
不動産を賃貸したときに発生する地代や家賃、借金の利息などが法定果実となります。
通常の必要費とは、目的物を保存・管理・維持するために通常必要とされる費用のことです。
特定遺贈の目的物または権利の瑕疵や滅失等の場合の効力
(1)不特定物の遺贈義務者の担保責任
特定遺贈の目的物が不特定物の場合において受遺者に引き渡された目的物が追奪を受けたとき、遺贈義務者は売買契約の売主と同様の担保責任を負います。
この場合において目的物に瑕疵があったとき、遺贈義務者は瑕疵のない物に取り換えなければなりません。
追奪とは、一旦他人に属した権利を自己が真正の権利者であることを主張して取り戻すことです。
(2)遺贈の物上代位
遺贈の目的物が滅失したり変造または占有することができなくなったなどにより、遺言者が第三者に対して償金を請求をする権利を取得したときは、この請求権を遺贈の目的としたものと推定されます。
物上代位とは、担保物権の目的物が売却・賃貸・滅失・破損され、その交換価値が、それぞれ売買代金・賃料・保険金などの請求権として現実化された場合、これらの請求権にも担保物権の効力が及ぶことです。
推定とは、あることから他のことを推測・認定することで、反対の事実があることの証明があればその効果を生じません。
(3)第三者の権利の目的である財産の遺贈
目的物または目的である権利が、遺言者が死亡した時点で第三者の権利の目的となっている場合、受遺者は遺贈義務者に対し、原則としてその権利を消滅させるよう請求することはできません。
ただし、遺言者が遺贈義務者に第三者の権利を消滅させる義務を課す意思を表示している場合、例外的にその遺言者の意思表示に従わなければなりません。
(4)債権の遺贈の物上代位
債権を遺贈する場合、遺言者が弁済を受け、かつ、受領した物がその相続財産を構成するものであるときは、その物を遺贈の目的としたものとされます。
金銭債権の遺贈の場合は、弁済を受けた金額に相当する金銭が相続財産を構成するものでないときであっても、その金額を遺贈したものと推定されます。
おわりに
今回は、遺贈について説明いたしました。
遺贈以外の遺言の効力については、次回の記事で説明したいと考えています。
神戸の終活奮闘記では、みなさまが遺言を作成するときや突然相続が始まったときに役立つような記事を書いていきたいと考えています。
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